【なにわ営業道】かわいい子には旅をさせろ
新居は大阪駅から徒歩10分の新築マンション。
会社までも歩いて15分。東京で満員電車に乗る
ことを考えれば、大阪での「徒歩通勤」は、
かなりの贅沢だと感じた。部屋は30㎡なので、
けっして広くはない。だが、日中は会社にいて、
深夜に帰宅。数時間後にはまたすぐ出勤なので、
ベッドとシャワーがあれば全く問題なかった。
営業で最初に担当したのは「京阪」「奈良」。
東京人の私にとって、全くの未知のエリアで
あった。しかし引継いだ後は、自力でお客さん
のところへたどりつかねばならない。私は得意
の「車営業」で、まずは地域を知る作戦に出た。
当時の営業車には、カーナビもついてなかった。
住宅地図を切り張りして、担当エリアの住宅地を
廻った。奈良では、物件周辺に点在する寺社仏閣、
明石家さんまが「ひょうきん族」でネタにした
奈良公園の鹿を見れて、ひそかに嬉しかった。
私は小学生時代「日本史おたく」であり、教科書
にあった「法隆寺」や「東大寺」などを、生で
見れたことで、テンションが上がった。
夏休みには、家族も呼んで案内しようと思った。
「ここで聖徳太子が17条の憲法を制定したんだ。」
「この大仏は、聖武天皇が奈良時代に建てたんだ。」
「この寺は、信長が焼き討ちにしたんだ。」
などなど、行く先々で日本の歴史の重みを体感し、
同時に関西の地理にも詳しくなった。
大阪で過ごす週末は、「車で営業1人旅」。
自宅には、隔週で帰る二重生活が始まった。
同じ頃、 東京では、長女のみーちゅーが、
小学校に入学。 新生活をスタートさせていた。
父は会社まで歩いて通勤。娘はバス通学である。
ついこの前まで幼稚園児だったちびっこを、1人で
通学させるのは、不安でいっぱいだった。嫁からの
報告で、学校の帰りに寝過ごし、終点まで行って
泣きながら帰宅したり、定期を忘れ、これまたバス
の中で大泣きしたり。事件は色々あったようだ。
しかし十数年後、そんな娘が、ひとりでパレスチナ
に旅するくらいまで成長したのは感慨深い。
(つづく)
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