【ハッスル運動会①】スタンディングオーベイション
会社で女性メンバーの育成に奮闘する中、嫁からの「運動会委員」の依頼。ただでさえ、仕事に追われ、東京大阪を移動する二重生活。これ以上、時間をとられるのは、正直勘弁してほしかった。
「そんなの、暇なやつがやるもんだよ!」
「でも、みおちゃんの時はやらなかったし、月に2回は東京に戻ってくるから、断れなかったの。」
嫁は、せつな顔で訴えてきた。私は、悩んだあげく、どうせなら、司会でもやって盛り上げてやろうかと。「娘たちの記憶に残る運動会をやってやろうかな!」私はひそかにたくらんだ。運動会委員のお父さんの中から、司会が選ばれるのは、みーちゅー(長女)の時の運動会で知っていた。
「よしわかった!やってやろう!」
「本当にやってくれるのね?よかったわ。」
嫁は、ほっと安堵の表情を浮かべ、涙ぐんでいた。
それから数週間後、2004年8月。運動会の準備会が行われた。お父さんたち約30名が、幼稚園の会議室に集められた。園長先生のお祈りの後、お父さんたちと先生方の自己紹介があり、運動会の説明へと続いた。そして、運動会当日の役割を決めることとなった。「受付係」「用具係」「音響係」「得点係」等、お父さんたちは順番に希望の仕事を申し出た。
「私は、司会をやらせていただきます。」
自分は自ら名乗り出た。一瞬の静寂の後、会場内には予期せぬどよめきが起こった。
「和田野さん。本当に司会をやって下さるの?」
園長先生は、驚いた表情でお尋ねになられた。
「はい。本当にやりますけど。」
その瞬間、場内にスタンディング・オーベーションのような大歓声と拍手が鳴り響いた。松井がヤンキーススタジアムでサヨナラ・ホームランを打ったかのような祝福だった。
「去年は司会が中々決まらず、誰がやるかで1時間以上、紛糾したんですよ。」
あるお父さんが興奮気味に事情を説明してくれた。
「司会ぐらいでそんなに喜んでもらえるのか。」
私は、きつねにつままれたような気持になった。
(つづく)
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